ローズゼラニウム考察

Rose Geranium

 

■目次

  • 抽出方法
  • ゼラニウム精油の特性
  • 伝承と歴史
  • 伝統的なアロマセラピー
  • 伝統的なアロマセラピーでの報告
  • 中医学に関すること
  • 安全に関する現在の情報

 

夏が到来し、私の庭は植物の花開く豊かで官能的な香りにあふれています。私の好きな精油はラベンダー、イランイラン、ゼラニウム、ローズゼラニウムなどの伝統的な香りです。アンフルラージュのガーデニアやチュベローズの魅惑的な芳香も心をうっとりとさせてくれます。夏は花々の季節です。花々から抽出される精油の絶妙な香りは、自然からの最高の贈り物です。

 

私のお気に入りの花精油はゼラニウムとローズゼラニウムです。ローズゼラニウムはゼラニウムの一種です。どちらも美しい香りで似通った性質と用途を持っていますが、私が最も愛しているのはローズゼラニウムです。

 

多くの人たちは、ローズゼラニウムといえば、赤やピンク、あるいは白の大輪の花を咲かせ、大きな葉を持つ園芸品種をイメージします。これらは園芸品種として多く見られるもので植物学的にはPelargonium x hortum(ペラルゴニウム・ホルタム)として知られているゼラニウムです。これらのゼラニウム植物は、姿こそ美しいのですが香りはほとんどなく、アロマセラピーに使用するゼラニウムではないのです。

 

アロマテラピーに使用されるゼラニウムとローズゼラニウムの精油は通常Pelargonium graveolens(ペラルゴニウム・グラウォレンス)とPelargonium graveolens var roseum(※ペラルゴニウム・グラウォレンス変種ロセウム)です。ゼラニウムの学名については多くの人たちに論議されており、何人かの研究者はPelargonium capitatum(ペラルゴニウム・カピタラム)、Pelargonium asperum(ペラルゴニウム・アスペラム)もしくはPelargonium graveolens var roseumが同じであると述べています。パトリシア・デーヴィス(※)は、アロマテラピーに使われるゼラニウム精油はPelargonium odorantissimum(ペラルゴニウム・オドラティッシムム)に由来すると述べています。そのため、この問題は簡単には解決されず、私の知るところでは、これらのゼラニウム精油が、同じものとして様々な蒸留所から提供されていた例もありました。アーティザンで扱っているゼラニウムとローズゼラニウムは、それぞれPelargonium graveolensPelargonium graveolens var. roseumです。

 

※varはvarietyの略で植物種類上の変種の意味

※英国を代表するアロマセラピー研究家

 

ペラルゴニウムは南アフリカ原産で「ニオイゼラニウム」とも呼ばれています。上に挙げた品種を含む、ペラルゴニウム種には多くの種類があります。それらの香りのあるゼラニウムのなかにはチョコレートの香り(!)のするものもあります。他の香りのするゼラニウムも精油として蒸留することができますが、ほとんどは市販されていません。

 

アロマテラピーにおけるゼラニウムとローズゼラニウムの植物分類上のもう一つの重要な事として「Cranesbill」と呼ばれるゼラニウムは、テンジクアオイ属 (Pelargonium)ではないという事です。「Herb Robert」(学名:Geranium 、和名フウロ=風露、フウロソウ属)として知られているものは「Cranesbill」です。この植物は、歯痛、鼻血、傷などの治療薬としてヨーロッパのハーブ療法で使用されており、古くは癌にも効果があると言われてきました。

 

一方、Pelargonium graveolensは、伝統的な西洋のハーバリストにはあまり使用されていませんでしたが、例外もあります。下記の「伝承と歴史」の部分を参照ください。

 

今日、ほとんどの植物療法家はペラルゴニウム属を精油としてのみ使用しています。ジャン・バルネのような初期のアロマセラピー研究家によって「ゼラニウム精油」の特性とされてきたいくつかは、古い草本の文献に記された学名:Geranium robertianum(ヒメフウロ)から取られたように思われます。よって、ペラルゴニウム属から得られる精油に分類されるべきではありませんでした。このため、ゼラニウムとローズゼラニウムの精油の特性と適切な使用法に関する誤情報が広まってしまっています。私はこの文書を作成することで、この問題に陥るのを避けたいと考えています。

 

 

 

■抽出方法

ゼラニウムとローズゼラニウムの精油は葉、茎、花部から水蒸気蒸留されます。ただし、収油量の関係から大半のゼラニウム精油は葉から抽出されています。Pelargonium graveolensは、エジプト、中国、モロッコ、クリミア、ウクライナ、ジョージア、インド、南アフリカなどで主に精油を生産する目的で栽培されています。イタリアとフランスでも小規模な栽培が行われています。「ローズゼラニウム」の名称は、レユニオン島(かつてはブルボン島と呼ばれていたフランス領の島)の特別な栽培品種であるゼラニウム・ブルボンから抽出された精油に対して適用されてきました。現在、ゼラニウム・ブルボン精油の生産量は少なく、広く利用されていません。現在、ゼラニウムローズの精油はレユニオン島以外の国々でも生産されています。アーティザンのゼラニウム・ブルボン精油はフランスで厳選されたものです。

 

 

■ゼラニウム精油の特性

Pelargonium graveolens の精油は無色から緑がかった茶色で、バラのような繊細なニュアンスの重みと甘さのある美しいフローラルの芳香を持っています。なかでも、ローズゼラニウムは最高のローズノートを持ち、多くの人たちに好まれています。また時には、ゼラニウムとローズゼラニウムは、本物のローズ精油を「薄める(量を増やす)」ための偽和剤として使用されることがあります。

 

 

■伝承と歴史

ペラルゴニウム属(おそらくPelargonium sideoidesと思われる)は、南アフリカのホッテントット(コイサン族)とズールー族によって何百年もの間、赤痢、咳、上気道炎症、胃炎、結核などの症状に対して使われていました。1897年、チャールズ・スティーブンスというイギリス人が南アフリカの伝統的な施術による結核の治療を受け、現地で採れるゼラニウムの煎じ薬が与えられました。それによってスティーブンスの結核は治癒し、その後イギリスに戻った彼は、その治療薬を「スティーブンスの結核薬」として販売しました。1920年代のスイスの医師、エイドリアン・シーシュ博士はスティーブンスの結核薬を使って800人もの結核患者を治療しました。

 

 

■伝統的なアロマセラピー

ゼラニウムとローズゼラニウムの精油は実質的に同じ特性と用途を持っており、ほとんどの目的のためにアロマセラピーで互換的に使うことができます。ただし、クライアントがどちらかのゼラニウムを好む場合は、その選択を優先して使用することをお勧めします。

 

アロマセラピストたちの間では、ゼラニウムとローズゼラニウムの精油は、他の花精油にも見られる気分の高揚作用や抗うつ作用があることで知られています。主に月経の問題(特に月経過多)、PMS、更年期症状などの女性ホルモンのトラブルのために使われてきました。ゼラニウムとローズゼラニウムはどちらも皮膚のケア(真菌感染症、油性肌、軽度の創傷/咬傷、および褥瘡)や筋骨格系のトラブル(関節炎、リウマチ、筋肉痛)に対して使用されています。パトリシア・デーヴィスによれば、ゼラニウム精油は皮脂分泌のバランスを取るとの事です。パトリシアの述べる作用はゼラニウム精油が副腎皮質ホルモンの分泌を促進する事に由来しています。

 

ゼラニウム精油は、糖尿病の末梢神経障害および様々な種類の神経痛の緩和に効果をあげており、血糖値の調整を助けると言われています。その他にも、リンパおよび血液循環を促進すると報告されていて、静脈瘤のためのスプレーやフェイシャルクリームなどに使われています。

 

アロマセラピストたちは、ゼラニウム精油は一般的にリラックス作用をもたらし、興奮状態や落ち着きのなさ、不安感などを和らげ、慢性的なストレスを抱えている人たちを助けると考えています。けれども、一部の人たちにとって、ゼラニウム精油は気持ちを刺激する事があるため、落ち着かせる目的で使用する場合には慎重さが求められます。興味深いことに、随伴性陰性変動(※)の研究では、ゼラニウム精油が刺激とリラックスの両方の作用を発揮することを示しました。

 

私の経験では、ゼラニウム精油にはブヨや蚊に対する忌避作用があることが分かりました。

 

講師からの補足:

※随伴性陰性変動(CNV)については、国内アロマセラピー研究家の故・高山林太郎氏のblog「〔コラム〕CNV (Contingent Negative Variation – 随伴性陰性変動) について ー 鳥居鎮夫先生の思い出 」を参照ください。

 

 

■伝統的なアロマセラピーでの報告

  • 鎮痛(神経痛、筋肉痛)
  • 抗炎症(関節/筋肉、消化管、扁桃、皮膚)
  • 抗真菌
  • 鎮痙
  • 抗ウイルス
  • 収斂(止血)
  • 癒傷
  • リンパうっ滞除去
  • 消化促進
  • 緩和
  • エストロゲン様
  • 催淫
  • 高揚
  • 瘢痕形成
  • 通経(一部の研究家による)

 

 

■中医学に関すること

エネルギー:冷、湿

主な要素:水(土)

作用の範囲:身体、心、精神

ゼラニウムとローズゼラニウムの精油で報告されている中医学の作用には以下のものがあります。

 

  • 陰の強壮
  • 熱を取り去る
  • 気を循環させる
  • 脾臓/膵臓の強壮

 

以下の場合には、ゼラニウムとローズゼラニウムの精油が役立つ可能性があることを現代の様々な研究家が報告しています。

 

  • 慢性的な不安感
  • 慢性疲労
  • 閉経
  • 皮膚の炎症
  • 関節炎/リウマチ
  • リンパのうっ滞による痛み

 

ゼラニウムは脾臓/膵臓(土の要素)の強壮剤として記載されており、下痢、リンパのうっ滞とそれに伴う身体の痛み、およびそれらが原因する疲労感や無気力を訴える人々にとって有益であると言われています。

 

中医学では、身体から熱や炎症を取り除くことに加えて、ゼラニウム精油は、興奮、フラストレーション、苛立ちから生じる熱を取り除くと言われています。陰の性質を持つ強壮剤の特長として、こうした精油はマインドとスピリットを強めます。

 

 

■現在の安全情報

ゼラニウムとローズゼラニウムの精油は、一般的に外用は安全だと考えられています。ゼラニウム精油は欧州連合では強力な感作物質として分類されていますが、ロバート・ティスランドとヤング(2014)はゼラニウム精油に関する皮膚感作の研究をまとめ、そのリスクは低いと結論づけました。しかしながら、適切な希釈による皮膚への配慮は必須であり、皮膚に対する頻繁な使用は避けるべきです。私はまた、感作のリスクが高い人にはこれらの精油の局所使用を避けることをお勧めします。(すなわち、似たような反応の既往歴や敏感肌の既往歴がある場合)

 

ゼラニウムとローズゼラニウム精油に関して、何人かの研究家は、妊娠中およびエストロゲン依存疾患性の症状やそれらの癌患者らはゼラニウムおよびローズゼラニウムの精油を避けることを推奨しています。その一方で、ゼラニウム精油は、ロバート・ティスランドとヤングが2014年に発表した妊娠中の禁忌精油にゼラニウムは含まれていません。

 

ゼラニウムおよびローズゼラニウムの精油を経口使用すると、重大な薬物作用が生じることがあります。私はいかなる場合でも経口使用に関する適切な訓練を受けていない人による精油の経口使用は勧めません。ゼラニウム精油は糖尿病の治療薬と相互作用を起こすことが示されています。理論的には他の薬とも相互作用する可能性があるCYP2B6酵素によって代謝されるシクロホスファミドなどの薬(服用薬については主治医、薬剤師に問合せを)を使用している人も避けてください。なお、ゼラニウム精油は標準的な局所使用や少量の吸入では、薬物相互作用は起こりません。

 

お断り:

この文書に含まれる情報は教育上の利益のためであり、身体または精神に関する疾病、診断、治療に使用することは意図されていません。

 

 

引用文献:

パトリシア・デーヴィス(1988)Aromatherapy An A-Z Saffron Walden:CWダニエルカンパニーPg 143

Lis-Balchin・M.(2006)アロマセラピー科学:ヘルスケア専門家のためのガイド。ロンドン:Pharmaceutical Press

ロバート・ティスランド&ヤング(2014)「エッセンシャルオイルの安全性、第2版」。ロンドン:Churchill Livingston

 

追加リソース:

Bakkali. F. et al(2008)精油の生物学的効果 – レビュー。Food and Chemical Toxicology、46(2):446-475。

Boukhris・M・etal(2012)アロキサン誘発糖尿病ラットにおけるPelargonium graveolens L’Herの葉精油の血糖降下作用および抗酸化作用。健康と疾患における脂質11 (81): 2-10

Edris・AE(2007)精油およびそれらの個々の揮発性成分の製薬上および治療上の可能性:レビュー。Phytotherapy Research、21(4):308-323

マルヤマ・N(2006)ゼラニウム精油によるマウスのカラギーナンおよびコラーゲンII 誘発炎症の抑制。炎症のメディエーター、vol。(2006)、記事ID 62537,(2006)ドイ:10.1155 / MI / 2006/62537

 

 

記事監修:ジョーイ・パワー医師(2016年6月28日)

翻訳監修:堀弘明・堀浩子